「幻の酒」と黒龍自らはいわない。が、しかし黒龍の酒を指して「幻」と、尊敬の気持ちを持って呼ぶことは過大ではない。量を増やすことはしないと断言する姿勢からは、今後も入手しにくい状態が続くだろうし、何よりもその姿勢で造られる酒は確かに旨い。今、北陸でもっとも注目すべき蔵だろう。

酒どころ九頭龍川に添う町、松岡町にあって、１８０３年創業の歴史を持つ蔵が、今人気の蔵として二千数百石の酒を醸している。高い評価が定まるにつれ求める人が多くなり、現在では何年も先まで待たなければ入手できないもの、毎月一定本数を信頼のおける全国各地の酒販店にのみ届けるというものまで、まさに「幻の酒」というにふさわしい黒龍である。それでも「手作りで自信のもてる酒を造るには限界がある。」と水野正人社長はきっぱりという。「女房の顔を見るより仕込みタンクを見ている方がいい。もろみがかけてくる声、その表面の泡の様子と対話するのは酒造りの楽しみ。緊張感を持てる酒造りからいい酒が生まれるんだよ。」と語る口調からは、単に商人でなく職人のようである。毎年造りが終わると入院している社長が造り黒龍は、信頼のおける酒のひとつである。

大吟醸

米： 八反錦・五百万石
精米： ５０％
酸度： １．３
日本酒度： ＋４〜

大吟醸の一年もの。フルーティな香り、透明な喉ごし、さわやかな飲み心地はすばらしく、この価格としては感動的な酒といえよう。