旬肴地酒 貴田乃瀬
旬肴地酒 貴田乃瀬
静岡県浜松市田町 231-1
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05-01-26 日本酒 Index / 近畿

沢の鶴 32年大古酒

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大手の蔵元を信用しないわけではない。どれほど大きな蔵元でもすばらしい日本酒を作ることは可能なはずだ。実際、そんな蔵元も多い。ただ、元来へその曲がった私は、大手の蔵元・と言うだけでその酒の評価を自分で半分ぐらいにしてしまっていた。「沢の鶴・18年大古酒・熟露」18年だろうが、20年だろうが・・正直そういった先入観はあった。

ずいぶんと前、この「沢の鶴・18年大古酒・熟露」を飲んだことがある。特別驚く事は無かったと記憶している。古酒独特のローストした感じが心地よく感じた・・ぐらいだったろう。

野嶋さんから「親方、いいものもって行きますよ」とメールをもらったその中に「沢の鶴大古酒」の名前を見つけた時、正直に言って胸は躍らなかった。しかし、野嶋さんがお店に持ってきた「沢の鶴」の箱が妙に古ぼけているのが気になった。ゆっくりと箱から取り出した「沢の鶴」のビンを見た瞬間、ビンの中の酒の色で驚いてしまった。自分が知っている「18年大古酒」の色ではない。

「黄金色に輝く」と言うのがこの「18年大古酒」のキャッチのひとつだったと記憶しているが、野嶋さんが手にしているそのビンの中、つまり酒の色は薄口の醤油に近くビールのビンのような色をしている。
市販品としての「沢の鶴・18年大古酒・熟露」でないことはすぐにわかった。野嶋さんの言う「いいもの」とはこれだ。「すごいやつ」だ。

お店の仕事がひと段落して、野嶋さんと話が出来るくらいになって「すごいやつ」をあける事にした。まだ詳しい説明を聞いてない、とりあえずはこの「すごいやつ」を少しでも早く口にしてみたい。野嶋さんの前のカウンターにグラスを2つ並べる。封を開ける。注がれた「すごいやつ」はまったりとグラスの口をなめ、ゆっくりとその色でグラスを満たしていく。自分の分と野嶋さんの分、お互いの顔をうかがいながらゆっくりと口に運んでいく。唇に「すごいやつ」があたる。

「なんだ?」・・これ以外には言葉が無い。「すごい」とか「すばらしい」とか、頭に浮かぶ言葉でこの酒を表現できなかった。「なんだ?」。これは一体なんて表現すればいいんだ。確かに「古酒」だ。そんな事ぐらいわかる。違う、何かが特別な何かがこの酒にある。口の中の「何だ?」をゆっくりと飲み干してから野嶋さんに聞いてみた.「この酒にかかっている魔法は一体何?」。にんまりとそのわけを話し出してくれた。驚いたのではなく、ものすごく納得してしまったのだ。「18年大古酒」をすばらしい管理状態の下でさらに14年も寝かしておいたものだった。

時間が表現できない味として舌の上にのっている。「時間の味だ」。単純ではなく、かと言って複雑でもない。言葉で表現しようとすると口の中に残っている味わいがそれを許さない。「お前が持っているボギャブラリーでこの私が言い表せるものか」と、挑戦的なのだ。

今までもたくさんの古酒や熟成酒を飲んできた。自分で酒屋の冷蔵庫や蔵元の蔵を借りて酒を寝かせるくらいに古酒や熟成酒はこちらのものだったはずだ。はっきり言えばこの「18年大古酒」よりも優れた酒はたくさん知っているつもりだ。しかし、市販するときに18年、それを寝かして14年、この後からのの14年のすごさを感じさせてくれるようなものには出会ってないはずだ。身震いするような、時間の塊を口に出来るこの凄さ。呑んでみないとわからないとはこのことだ。

アルコールを口に出来る身体でよかった。日本酒が好でよかった。この仕事をやっていてよかった。感動するっていうことを体験できる心を持っていてよかった。大げさじゃなくって、心からそう思わせてくれる酒だった。まさに出会った「沢の鶴・18年大古酒」。この酒をすばらしい管理状態でさらに14年寝かせたことに感謝だ。酒にも人にも時間にも心から敬意を。

時間を感じると言う事を今までは自分が歳をとっていく事でしか感じなかった。古酒や熟成酒を前にしても、それと時間を感じると言う事は別々のことだった。こんな風にして長い時間を自分の身体で感じる事が出来るなんて思わなかった。酒の力、時間の力、そしてそれを作り与えた人の力、感動するなぁ

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