生ビールを始めて１年になる。店を開いてから１２年間「生ビール頂戴！！」は禁句だった。おかみさんと二人でやっている小さな店でも、客席の数を考えれば６時の開店から閉店までかなりヒマじゃないと突っ立てボーとしているような事はない。つまり、常に動いているわけだからとても生ビールなどグラスついでいる時間などないと思っていたのだ。

おまけに私はビールがそんなに好きじゃない。だってこれから料理を食べようとするときに、炭酸ガスの入った飲み物を口にするとすぐにお腹がいっぱいになってしまって思う存分食べられない。ビールを飲むのは焼肉を食べるときぐらいだと思っていた。ちょうど去年の今頃、酒屋に連れられてサントリーの営業がやってきた。「今日は、親方に絶対にうまいと言ってもらえる生ビールを持ってきました」と言う。さらに「親方のお店で１２年間、生ビールを置かなかったことを後悔するような生ビールです」と言う。馬鹿な・・・。そんな生ビールがあるわけがない。大体、もし生ビールを置くにしても、そんな場所はこの貴田乃瀬にはない、あるわけがない・・そう断言した。「では、これを」と言って、野球場で見る背中にしょった生ビールのサーバ（個人的これがほしい）から程よく冷えた生ビールをグラスに注いだ。思い出すと、去年の今頃も５月にしてはかなり暑かった・・・・今にして思えば、あの暑さにやられたと思うのだが、とにかくその程よく冷えた生ビールをひとくち口にして最初に自分の口から出てきた言葉が「う・ま・いぃぃぃ」と言う言葉とゲップだった。

やられた、この時、この瞬間のサントリーの営業の顔を私は一生忘れる事はない。それくらい「してやったり」って言う顔をしていた。とにかく、この「う・ま・い」の一言で貴田乃瀬に生ビールがやってくる事になったのは間違いがない。・・・この話し、ちょっと長くなるので今日はこれくらいで。
続きはまた。